世田谷に空き家5万戸の衝撃 2割以上が市場に流通せず

空き家を改修してオープンしたシェアスペース「せんつく」。屋根や柱、ふすまなど以前のままの姿を残している=東京都足立区千住寿町

 全国で問題となっている空き家。国の推計によると東京都内にも約81万戸あり、その7割は23区内にある。過疎化とは縁遠い首都圏でも高齢化でさらに空き家の増加が懸念される中、利活用につなげる取り組みもある。(国米あなんだ)

 高級住宅街として知られる田園調布に近い世田谷区内の住宅地。最寄りの東急奥沢駅から10分ほど歩くと、雨戸が閉まり、庭の草木が伸び放題の戸建て住宅があった。外観は古くもないが、長く人が訪れていないようだ。

 不動産会社「JECT(ジェクト) ONE(ワン)」の空き家活用プランナーの竹内麻実さん(31)は敷地の外から庭や住宅の状況を確認し、「空き家のようですね」。周りを少し歩くと、ほかにもツタなどの植物で玄関や全体が覆われた木造のアパートや戸建てがあった。

 この地域は世田谷区の2016、17年度の調査で空き家密度が高いとされ、65歳以上のみの世帯が多く、区内でも高齢化が特に進んでいる。不動産価値が高く、若年層の家族は簡単には手を出せないことや、戸建て中心の低層の住宅街に保つため、都市計画で建物の高さに制限が定められ、不動産業者もマンション開発などに、慎重になりがちな点も、空き家の多さに影響しているという。

 総務省の18年の住宅・土地統計調査(抽出調査)によると、都内の空き家は全住宅の約1割にあたる80万9900戸だった。都の空き家率は10・6%で全国平均(13・6%)を下回る一方、その数は突出している。

 人口92万人を抱える世田谷区の空き家は5万戸で都内で最多だ。うち賃貸や売却向けなどを除いた、市場に流通していない「その他の住宅」に分類される空き家が約1万2千戸に上る。

 竹内さんによると、23区の空き家では、足立区など東部地域からの相談が多く、世田谷区内からの問い合わせはほぼないという。空き家の固定資産税の支払いが負担にならない家庭が多いことが理由の一つとみられるが、竹内さんは「空き家の期間が長くなるほど建物は傷みやすく、手放すのが難しくなる」と話す。

 世田谷区は昨年11月、空き家を10年所有した場合に生じる費用負担や相談窓口などを記した空き家対策のガイドブックをまとめた=表参照。区の担当者は「区内の不動産市場は活発なので、活用の意思や方向性を明確にすれば建物や土地の活用はできる」と話す。ただ、所有者が高齢だと手放す判断が難しく、放置される場合も少なくない。団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年以降、空き家が急増する恐れがあるという。

カギは改修、家賃収入も

 JECT ONEは現在、小田急祖師ケ谷大蔵駅(世田谷区)近くの築60年以上の3階建てビルの改装を進める。元々は社宅や住宅だったが、約20年前から使われなくなっていた。

 昨年12月、所有者から同社に相談があり、周辺環境などを調べた。単身世帯から人気が高い地域で、改修して近く飲食店兼シェアハウスとしてオープンする計画だ。竹内さんは「空き家は地域の困り事にもなるが、活性化させる資源にもなる」と期待する。

 空き家が約4万戸あるとされる足立区では今春、約10年間、空き家だった築70年ほどの古民家がシェアスペース「せんつく」に生まれ変わった。北千住駅から徒歩15分ほどの木造2階建てで、飲食店やシェアキッチンなどが入る。

 横浜市に住む60代の男性が生まれ育った家で、定期的に掃除などをしていたが手放せずにいたという。18年秋の台風で屋根の瓦が落下し、改修するか取り壊すか検討した。足立区から紹介を受けた空き家改修を手がける1級建築士の青木公隆さん(38)と改修費を共同出資して、利活用することになったという。

 改修費用は以前、他の業者から提案された額の半額ほどの1千万円。改修費を抑えたことで、男性に少額ながら家賃収入が生まれたという。

 玄関や階段、天井などはそのままの姿で、飲食店のオーナーらからは「雰囲気がある」と人気だ。青木さんは「古い建物だからこそ魅力を感じる人も多い。空き家を解体する以外の活用策があることを知ってほしい」と話している。

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